【固定？可撤？】 術者も患者もインプラントを用いた欠損補綴治療において、固定性の補綴装置のほうが優れていると思いがちであるが、顎堤の幅が狭小な場合や歯槽骨の 高度な吸収をともなう症例では、固定性の欠損補綴装置では外科的侵襲も大きくなり、顎堤の復元や顔貌の回復も困難になるケースも見受けられる。

【補綴装置の選択基準とは？】 顎堤の吸収が著しい場合には、口唇、頬粘膜のサポート(顔貌の回復)および審美性、咀嚼・発音機能の回復に注意して補綴装置を選択することが重要である。また、インプラント体の埋入位置および角度により、舌房のスペースを阻害しないよう配慮すべきである。 顎堤の吸収が進行すると固定性のインプラント補綴装置では、前歯部の適切なリップサポートの回復は難しくなる。特に上顎は留意すべきである。歯冠部を顎堤前方に不自然に設置したり歯軸の傾斜を急な角度にしなければならない症例も多く、力学的にも審美性の面からも多くの問題点が発生する場合がある。

【誰にとっての装置なのか？】 術者の思い込みあるいは患者の希望だけで補綴装置の選択をすることなく、発音、審美性、装着感、清掃性、経済性あるいは、患者の高齢化により、介護を受けるようになった時に介助者がおこなうメンテナンスを考慮して、補綴装置の設計を計画・立案することが重要であると筆者は考える。マグネットアタッチメントは、メンテナンスに関して装置自体がシンプルな構造であるため特別な道具は必要せず、介助者にとっても清掃は難しくない。

【高齢者に優しい補綴装置とは？】 筆者の臨床経験では、基本的にマグネットアタッチメントの周りは義歯床で覆われているため食物残渣は入りにくく、辺縁の封鎖の状態が良好であれば、入ったとしてもその量は多くはないと感じる。ただ、キーパー周囲の清掃には、それぞれのケースに合った清掃用具を用いることも重要である。 世界は長寿社会を迎え、インプラント治療も一般の介助者でも容易にメンテナンスできる補綴装置を考慮すべ き時代になったと思われる。また、高齢者の口腔衛生管理は、寿命との相関関係も取り沙汰されている。

【こっそり、しっかり、伝えます】 要介護状態が進行すると口腔内清掃は、う蝕や歯周病の管理と同時に誤嚥性肺炎の予防や管理もしていかなければ ならない。その際に介助者にも着脱が容易で、メンテナンスも難しくなく、また維持力の減衰がなく、さらにアタッチメントの定期的な交換や調整がほとんどなくて、口腔内でも違和感の少ない小型でシンプルなマグネットアタッチメントを用いた IODは、高齢者にとって最適な補綴装置であると筆者は考える。日本で開発された超小型で閉鎖磁路タイプの高性能マグネットアタッチメントは、IODに非常にマッチングしていることも事実である。本公演では無歯顎および部分欠損症例において、少ない本数で効果的な機能回復を図るための治療計画、術式、補綴設計、臨床応用の留意点、メンテナンスなどを提示・解説します。